村カフェ 753 田中久美子さん

なぜ、飯舘村でベーグル?

東京都出身の私がなぜ飯舘村でベーグルを焼いているのか?ですよね?
飯舘村の前に福島市とのご縁がありました。私は看護師として都内の病院で仕事をしていたのですが、日々病気や患者さんたちの治療と向き合いながら奮闘していまして、その都度、色々と考えさせられることが多かったんです。
なので、思い切ってもう一度看護について専門的に学び直そう!と決心しました。それは48歳のときでした。
2009年の4月に福島県立医科大学大学院看護研究科に入学、学生として学び直すという新しい人生を福島市で始めました。大学院の仲間達は地元福島県の出身者が多く、その中には飯舘村出身の方もいました。
在学中に、「飯舘村といえば「椏久里珈琲」(現村カフェ753の場所)!是非行ってみて!」というリコメンドを何回かいただいて、連れてきてもらったことがありました。ただそのときは、お店にはたくさんの人が並んでいて、行列と待ち時間に耐えられず、断念して帰ってきてしまったんですが、その後も海に行ったり、野馬追を見に行ったりする際に飯舘村を通っていたので、その度に、牧歌的で綺麗に手入れされた田畑や里山の景色を見ていました。もちろん椏久里珈琲も。
こうして思い返して見ると、ここでカフェをやるご縁が始まっていたようにも思えますね。

看護師人生の勤め上げる覚悟で、福島県浜通りへ

2011年の3月、大学院修了間近で震災がありました。
私は神奈川県の病院に就職が決まっていたので、関東に帰ったのですが、大学院の仲間達は福島の復興と医療支援のためにみんな奮闘していて、故郷への想いの強さや必死で向きあっている姿勢を遠くから見ていて敬服していました。
震災後の状況は、自分達がいつも直面している医療現場と重なって見えていまして、急性期は対応が手厚いのだけれど、慢性期になると対応頻度が下がり経過を見ているみたいで、震災当時は全国から支援や人手がたくさん集中していたけれど、数年後には支援が薄くなっていくという意味合いです。

震災から5年後の2015年、震災支援活動が慢性期に入ったかな?と感じていた私は、今なら自身の人生でご縁があった福島県で少しは役に立てるのでないかと思い立ち、看護師人生の最後を勤め上げる覚悟で、大学院時代の友人が運営している相馬市の訪問看護ステーションへやってきました。
相馬市にある浜通り各町村の応急仮設住宅が仕事の現場でした。飯舘村の仮設住宅もあり、村の方々とはこの時期に仕事を通して交流が深まっていきました。

飯舘村の避難解除が決まり、仮設住宅生活をしていた患者さんたちが帰村するのに併せて、私たちの訪問看護先も飯舘村へと移っていきました。その時期の飯舘村は、院生の頃に眺めていた綺麗な景色も椏久里珈琲も荒廃してしまっていて、変わり果てた姿になっていたことを今でも鮮明に覚えています。
それでも帰村される方々には、それぞれの事情や考えがあって帰村しているわけですし、避難解除になったばかりの頃は複雑に様々な事情が絡み合っていて、みなさん大変ご苦労されていました。
私自身も間近で帰村された方々が生活を立て直そう、取り戻そうとする様子を目の当たりにしながら、一生懸命に看護の仕事でそのお手伝いをさせていただいていました。
そうした私たちの姿勢が仕事を通して伝わったからこそ、みなさんと良好な関係性を構築できたのかなーと思うのですが、村の方々との忘年会や飲み会にお招きいただく機会をいただきました。
いつの宴会だったか記憶が曖昧なのですけれど、その酒席で椏久里珈琲の話になったんです。思い出話から始まって、福島市で事業再開したよって話しだったり。
その流れで「飯舘村の店舗は再開するのかな」、「壊しちゃうのかな」なんて話題になりまして、そこで私が「だったら私が借りて復活させたい」と言ったんです。正直、酔った勢いもあったのですが、実は仕事上、精神科看護を担当していることもあり、精神障がい者の就労支援の一環で椏久里珈琲だった場所でベーカリー&カフェを事業化したら飯舘村の日常として役立ち、皆様に喜んでもらえるかもしれない、という思いもありました。
ベーグルに関しては、従姉妹が埼玉でベーグルベーカリーを経営していて、手伝ったことがある、それだけなんですが、何故か自分でも焼ける気がしていました。

そのときの計画性もない私の夢物語を、飯舘村の方々は真剣に聞いてくださっていて、飲み会の次の週には椏久里珈琲オーナーの市澤秀耕さんと会う段取りがされていて、実際にお会いすることに!
秀耕さんも、もう一度この場所を再開させたいという私の話を真剣に聞いてくださり、自分で話しながら、「もう後へは引けない。これもご縁、やるしかない!」と腹を括りました。

福島県で一番ベーグルを食べている村は、飯舘村!!

そして2020年の4月に753カフェ753としてオープンしたのですが(屋号の753は勤務先の訪問看護ステーションなごみから引用)、私が描いていた就労支援施設という当初の構想通りにはいきませんでした。
いざ勢いづいて動き出しては見たものの、就労支援モデルは自分が一方的に思い描いていた計画で、地域性や交通事情、復興の進捗、帰村して間もない精神障がい者を抱えるご家族の方々の生活事情や悩みに全く合致していないことに気づきました。
就労支援施設としての計画は断念しましたが、こうして秀耕さんが私に貸してくださっているのは、当初のそういった考えに共感していただけたからでしょうし、不甲斐ない運営状態でも、こうして見守っていただけているので、いつかは就労支援施設として機能するベーカリーにしていこうと今も考えています。

現在、村カフェ753でベーグルを買ってくださるお客様は、ほとんど飯舘村の方々。
なるべく、村産の食材を具材に使うことは大切に考えていて、これまでに、
いちご、ブルーベリー、いいたて雪っ娘かぼちゃ、なつはぜ、桜の花の塩漬け、にんにくスプラウト、トマト、荏胡麻(えごま)、大豆など、村内生産者さんにご協力いただきながらベーグルやパンの具材に取り入れて販売してきました。

福島県で一番ベーグルを食べている村だと自負しています(笑)!

また医療に例えてしまうんですけど、医療は愚直な継続を続けて少しづつ進捗していくもの。
この店も飯舘村にしっかり根ざして、愚直にベーグルを焼き続け、お店を継続していきたい。
ダサくてもいいし、お祭りじゃなくていいんです。日常風景の一部になることが目標ですから標ですから。
帰村して農業再開されている方々や、村カフェ753の隣でブルーベリーを育てるために毎週戻ってくる秀耕さんを見ていてつくづくそう思います。
復興も一歩一歩じゃないですか。
お店の営業と看護の仕事の2足の草鞋なんですが、これも私らしさであり、「私ならでは」だと思っています。

村カフェ753 (飯館村深谷字市沢193-1)
ホームページ:https://www.muracafe753.com/
◎ベーグル(冷凍)はネット販売を行っています。ぜひ、ご利用ください。