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畜産農家 天野浩樹さん
私は埼玉県出身です。父親の実家が相馬で祖父母が農家と畜産を営んでいました。
震災の1年前くらい前まで、建設業に従事していたので、田植えと稲刈りの際には相馬へ出向いて農作業のお手伝いをするくらい。
だんだん相馬の後継問題が現実味を帯びてきたころ、父は定年まで現職を全うしたいというので、私がちょっと先に相馬へ戻り、何かの仕事につきながら兼業で祖父母の仕事を手伝おうかな?くらいの気持ちで相馬に生活拠点をうつしました。
祖父の牛舎には3頭の牛がいて、震災前に牛の品評会で祖父が出品した牛が地区大会でチャンピオンになったことがあり、県大会にも出場しました。
そんな出来事を一緒に経験しつつ、牛の世話を手伝いながら自分が継承するのであれば、農業(米)よりも牛舎を拡大して頭数を増やしていけば、畜産業を営んだ方が収益性が高く、やり甲斐も見出せるかな?などと色々考えを巡らせていました。祖父と話しながら、さまざまなキッカケやご縁が重なり、牛舎の拡大と増頭を計画していた、そんな最中に震災が起こりました。
計画は頓挫こそしませんでしたが、当初の予定よりだいぶ遅れました。
牛舎を増築しながら牛が10頭に増えた頃、飯舘村の畜産家である佐藤一郎さんが相馬に避難されて牛舎でお仕事を始め、飯舘村の現状や飯館村の畜産業のお話を聞かせていただき、詳しく知るところとなりました。飯舘村の畜産農家さん、役場の方々とともに。
祖父からも「飯舘村は畜産が盛んで、競り名簿の上位はいつも飯舘村のメンバーなんだ」と聞かされてましたし、同じ旧J A相馬環内でも圧倒的に畜産業で突出してましたので、私自身も飯舘村の畜産業についてもある程度は知ってましたが、一郎さんからお聞きするリアルなお話は今後の事業選択をする上でも、とても参考になりました。
「やっぱりもっと牛を増やして本格的に畜産一本でやってみよう!」と決意を決めた頃、一郎さんが飯舘村に帰村することになりました。
飯舘村での畜産業再スタートの進捗や展望が気掛かりでしたし、近況を連絡したり、畜産に関するアドバイスも頂きながら自身の目標達成のために、色々と模索していたのですが、そんな折に、飯舘村で畜舎導入の事業が計画され、お誘いのお話をいただきました。
飯舘村で畜産業に従事する畜産農家に対して補助が出るという内容です。村役場の方々や一郎さんにさまざまな助言や説明を受けながら、この機会に助成制度を利用して飯舘村で牛舎を拡張と頭数を増やし、本格的に畜産業に取り組もうと決意しました。
決意後は、飯舘村での畜産業スタートに向け、自分の牛舎が完成する1年前くらいに飯舘へやってきて、準備を進めました。
その際には、畜産農家の山田豊さんのご好意とご協力をいただき、この制度で既に完成していた山田さんの牛舎を半分お借りして、牛を飼うことができるようになり、月に4頭ペースで牛を購入し増やしていきました。その間、相馬の牛舎は祖父と父親に任せつつ、自分の牛舎が完成したタイミングで相馬の牛たちも飯舘へ引っ越してきました。これは令和元年の話です。当時は放射能の問題がありましたが、全村避難期間中に除染が進んだ結果、自分で線量検査をして回った結果、問題無いと思いましたし、家族も私の意思を尊重してくれて畜産業を応援してくれることになり、今こうして家族全員で飯館村へ移り住み、村営住宅で暮らしながらこの牛舎で仕事をしています。
ランディング期間があったのと、牛舎が完成次第スムーズなスタートが切れるよう、役場の皆さんや飯舘村の畜産家の方々の計らいがありましたので順調に立ち上げることができました。飯舘村にやってきて約7年目。畜産を営む環境としてはこれ以上ないくらい充実していると思います。相馬の畜産環境が良くないってわけじゃないんですが、役場の方々の畜産に対する熱量や熟度が断然上ですよね。相談するにしても返ってくる答えや対応の度合いが手厚いと感じています。
事業拡大を目指して。
現在は、牛舎の他に約18haくらいの農地を村からお借りして牧草の栽培をしています。畜産業に従事するにあたって、自給飼料生産は欠かせないと考えているので、これについても村から多大なご協力をいただいています。
そして、今後は事業拡大が目下の目標です。繁殖牛を60頭に増やす。先ずは繁殖牛の生産基盤を安定させたい。次に肥育までの一貫経営に挑戦してみたいです。
かつて、東京の市場で注目されていた飯舘牛、自分からすれば「幻の飯舘牛」。相馬にいた頃から飯舘の牛は凄いんだと思っていて、今となっては当時の取り組みやエピソードなどを聞く機会だけになってしまいましたが、そんな飯舘牛が復活した時に、自分の牛がそのブランドで市場に出るようなことになっていたらそれは嬉しいですし、そうなるためにも是非一緒に協力させていただきたいですね。
飯舘村の主要産業になるべく、同業の仲間が一人でも多く増えてほしいけれど、畜産業は人に強いられてやるようじゃ務まらないと思っています。
自分の息子に家業継承を強制するつもりはありませんが、自分の仕事ぶりを見てもらって「お父さんの仕事継いでみたい」って思ってもらえるように頑張らないといけないな~と思っています。