菅野研究所 菅野元一さん

人の営みが豊かになる品種の研究と開発

飯舘村は私が生まれ育った故郷です。
震災当時、私は定年退職を控えた高校教員、岩瀨農業高校で校長をしていました。
飯舘村には年老いた両親が暮らしておりましたので、避難勧告をうけて、共に福島市で避難生活を始めました。その後、定年退職した私は、ご縁があり、福島市に開設された飯舘分校に教職員として復職することになりました。

避難生活の最中でも、若い頃から農産物の品種開発一筋、故郷に戻り、農業と開発を再開させるチャンスを待ち、準備しておりました。
待ちわびて3年。避難解除になってすぐに帰村し、農業と品種開発を続けましたが、生態系が変り、畑は猿や猪に侵略されていて、大変でした。
村全体を襲った、放射能被害。その風評被害の最中で作付けするにあたっては、不安が残ります。それでも、私はここで農業をして生きなければならない、という現実がありました。
厳しい状況でしたけれども、人間としても帰巣本能なのか、生まれ育って、私を育んでくれた故郷に対して、感謝や恩返しをしたいという感情が湧きました。

「いいたて雪っ娘かぼちゃ」ができるまで

私が品種開発した代表作が、「いいたて雪っ娘かぼちゃ」です。開発のきっかけは、32歳の頃にみた夢の話です。当時、私は県立高校の教員、税金から給料をいただき、それで生計を立てている身分。「自分の立場は、納税者に対して、生活が豊かになるような貢献を、自身の専門性を活かして還元しなければならない。」といったお告げのような夢でした。そんな夢をみた私は、定年退職になるまでに、生産者が誇れて、消費者に愛される作物品種を開発しようと決心しました。
中でも、品種改良がとても難しい「かぼちゃ」に挑戦しました。誰もがやりたがらなかった「かぼちゃ」の新品種開発を長い年月をかけて必ず成果を上げてみせる!
この活動こそが私なりの社会貢献活動と研究であり、自分の仕事だ!と信じて取組んだのです。
それから数十年、品種改良は困難を極め、交配と選抜、トライ&エラーの連続でした。「いいたて雪っ娘かぼちゃ」と名付けた新しいかぼちゃは、東日本大震災の3日後に完成しました。
完成=野菜の品種として認証され、国の品種登録が完了した、ということです。
提出した1200の種から抜粋され、厳しい試験栽培テストをクリアし、品質が認められた証です。
震災の3日後にこの吉報が届いたときは、運命的なものを感じました。
それからの私は、飯舘村発・新品種「いいたて雪っ娘かぼちゃ」を栽培し、全国へ普及させることが次の使命であり、村の農業と復興の旗印になる、と考えています。
現在、いいたて雪っ娘かぼちゃは全国で栽培され、その品種品評会が年に1回される程に普及してきております。
栽培してくださる生産者さんと、購入して食べていただいている消費者の方々に感謝でいっぱいです。

「イータテベイク」の未来・飯舘村の未来

あわせて開発に取り組んでいるのが、じゃがいも「イータテベイク」です。
こちらは、完成に向かって、まだまだ道半ばの状態です。
じゃがいも、サトウキビ、お茶は、その種を国家管理のもとで、原種の生産・供給がなされています。開発着手当時、じゃがいもの品種開発を許可されていたのは、福島県で唯一私だけでした。その特権を活かして、故郷の名前を冠したじゃがいもの開発に着手したのです。
当時の農業政策に対する懸念があり、大規模でエネルギーを要し、肥料と農薬で効率を上げる、そんな農業が持続可能とは思えませんでした。
イータテベイクは、肥料のいらない栽培を可能にすべく開発をすすめましたが、相反して栽培方法が難しくなってしまい、なかなか理解を得られませんでした。これは今後の課題です。

皮ごと食べられ、サイズが小さいのは調理の手間を無くすためです。
じゃがいもは世界中で栽培され、食されている野菜です。この開発が成功して、飯舘村から世界に広がっていったら・・・・!
そんな夢を追いかけながら、100種類を超えるイータテベイクの改良候補を作付けして奮闘している最中です。

村の農業の未来を見据えて、私なりの考えなのですが、最終的にはストーリーのある農業をやらなければならないと思っています。この村で施設園芸のような集約的な農業は限界がきていると感じています。「農地面積あたりの収益ではなく、農業で働く人が1時間あたり幾ら稼げるか?」、これを問う農業にならなければならないと考えています。効率のいい農地整備、水耕栽培、林産資源の活用など、できることがまだまだあると思います。
「神はいるのか?天国はあるのか?」。「ない」といったらそれまで。
『未来はある!』といって、信じて生きる人間でありたいと考えております。

<お問い合わせ>
菅野研究農場(菅野元一)
連絡先:090-6039-4514
ニコニコ菅野農園ホームページ:http://www.nico2farm.jp/