いいたての牛 肉のゆーとぴあ × catoe

料理人と生産者が繋がることは至極当然なことでもあります。
食材を提供する生産者なくしては料理人は成立しません。
また、生産者のこだわりや背景を料理で翻訳し、人々に伝えるのが料理人であり、これまた両者の良好な関係無くして、我々の食体験や感動は生まれないものです。

飯舘村で畜産業と精肉店を営み、高品質なエイジングビーフを加工する株式会社肉のゆーとぴあ 山田豊さんと
その牛肉に魅せられた料理人、レストランcatoe(郡山市)の加藤智樹シェフ。
お二人の対談で山田さんの取り組みがいかに挑戦的で先進的であることがわかりました。

本当の肉の味を伝えられる牛飼いを目指す

■加藤智樹シェフ
なぜエイジングビーフをつくろうと思ったんですか?

■山田豊さん
震災が起きて、飯舘村が「全村避難」という未曾有の事態に追い込まれてしまい、今後を想像したんです。
「1〜2年じゃ元には戻らないな」と。 当時は復興という未来の話題は希薄で、ニュースも人々の話題も放射線量の話題ばかりでしたし。 牛に関わる仕事について更に知識を深めておこうと考えたんです。父親が牛たちと一緒に避難先を確保し、やがて飯舘村で牛舎が再開できるまでなんとかするって言ってくれたので、自分も来るべきその日のために。

日本全国、牧場でも、生肉・加工業者でも、どこでもいいから働き口がないものか?という藁をも掴むような状況で情報を探していました。その時にご縁と言いますか、働かせてもらえる事になった京都の精肉店がエイジングビーフを手がけるお店だったんです。なので、僕はドライエイジングする精肉店しか知らないんですよ。

ここで働くまでにもいろんな牛肉を食べる機会があったのですが、常々「これが本当に正解なのか?」と疑問に思っていました。
京都で経験させていただいた精肉店でドライエイジングされた肉を食べた時に衝撃を受け、疑問に思ってきた理由がわかったというか、本当の肉の味を知らないまま牛飼いをしてきたんだと気付かされてしまったんです。

当初は精肉販売まではやるつもりはなかったんですが、ここで働いていくうちに、飯舘村で牛舎を再開させるなら、牛を出荷するだけじゃなく、美味しい肉・いい肉を販売するところまで責任を持って一貫してやらなきゃいけないと考えが変わってきました。当然やるならここで学んだドライエイジングビーフだなと決めていました。
生産者が出荷した肉の味を落とさない、更に熟成で肉の質を上げるのが仕事の一貫だと思ってやっています。

■加藤智樹シェフ
精肉業を始めてどのくらい経ったんですか?

■山田豊さん
まだ精肉を始めて半年くらいです。 まだ半年、まだまだ全然挑戦中なんです。(取材時2024年2月時点)

■加藤智樹シェフ
では、これからデータを積み重ねつつ、仕入れる牛の肉質を研究していくわけですね。 エイジングビーフは労力と手間がかかるとても大変な作業だと理解していますし、当然それを踏まえた食材として扱っています。
僕も料理人として今までいろんな牛肉を調理してきたんですが、牛の種類によってエイジングに向き不向きがあるように感じているんです。赤身の牛、経産牛の方がドライエイジングに向いてませんか?

■山田豊さん
それもこれから研究していくテーマです。経産牛のような長い年月生きてきた牛も、肥育の若い牛も試してみてる最中で、エイジングする期間も牛の個体に合わせて変わるというのも分かってきました。自分で納得する結果を出してみようと考えています。しっかりとした肉質は赤身の方が向いているというのは、ほぼ間違いないですね。

■加藤智樹シェフ
元々の個体が健康でなければならないですよね。エイジングしてもそれに応えてくれる強い肉質というか、当然向き不向きがあって、何でもかんでもエイジングすれば美味しい肉になるってわけじゃないですよね?自分は牛肉を食べた時に、そうした背景もわかってしまうんです。

■山田豊さん
そうですね。エイジングするとその牛が本来持っている特徴が際立つんです。なので、買い付けの際に個体の健康具合というポイントに気をつけて見定めないと、一頭の仕入れ肉が400~500kgあるんで、大変な事になっちゃいます。だから、目利きはとても大切な要素ですね。市場の肉質等級よりも個体の肉質を自分でしっかり見て、エイジングに向いていると判断したら買います。

■加藤智樹シェフ
僕は東京で修行して、こっちに帰ってきてお店を始めて10年。今まで福島県産の肉をドライエイジングして売ってくれる業者さんには出会ったことがありません。山田さんの取り組みを目の当たりにして、ここまでリスクを抱えて挑む人なんてなかなか居ないなって思います。そこを承知の上で挑戦する方が飯舘村に居ると聞いて、ぜひお会いしてお話を聞き、その肉で料理してみたい!と強く思いました。
ずっと探していた食材だったんです。

■山田豊さん
それはとても光栄です! 今日もこの対談のためにご用意していただいた3皿を食べてみて、自分の肉をとても理解してくれているのがわかりました。肉とソースの相性はもちろんですが、どの皿も使われている食材が一体に合わさっていて、特にスネ肉の煮込み、「オッソブーコ」は自分の好みです。ワイン何杯でも行けてしまいますね。
毎回納品する肉も個体差があると思うんですが、どのようにそれぞれに合わせた調理法や味付けをして仕上げているんですか?

 

★お料理メニュー画像・特徴
左上から時計回り順に
・イタリア人も納得!「ボロネーゼ」
来日したイタリア人が食したお墨付き。やさしい野菜のうまみとお肉の香り・旨みをしっかり感じられる本場のボロネーゼ

・「山田ビーフのロースト 旬の焼野菜」
エイジングビーフの美味しさを噛みしめる度に感じられる一皿

・スネ肉の「オッソブーコ」
ホロホロとやわらかく煮込んだスネ肉と野菜の味わいとスパイスの調和がたまらなく美味しい一皿

 

■加藤智樹シェフ
僕のバックボーンはイタリア料理です。イタリア各地のクラッシックな郷土料理というルーツがあります。調理法もそうです。
レシピ通りだと仔牛を使う料理なんだけど、山田さんのエイジングビーフ・部位は「スネ」ってなった際に、合わせる香味野菜の量やハーブの種類などで素材のおいしさを引き出すための回答を導き出します。調理方法は至ってシンプルで、これを変えることは基本ありません。
料理する前に届いた各部位を火入れしてそのまま食べてみることで、それぞれの特性や良し悪しを料理する前に把握しておく行為も欠かせません。あとは感覚的な判断なのでうまく説明できないんですが。あと、生産現場に行って生産者に会って・話すという過程はとても重要で外せません。
ロースやヒレのような特に難しい工夫をしなくても美味しく食べられる部位っていうのは、売りやすいでしょうし、実際そういった部位から先に売れていくと思うんです。逆に売りずらい、人々の認知が低いような部位や何もしないとミンチになってしまうような部位の方が、僕の場合料理人としてのスイッチが入りますね。
イタリア料理の肉料理で使う部位の種類はとても幅広いですし、どんな部位でも美味しい一皿に仕上げるのが僕たち料理人やレストランの役割だと思っています。
今日は山田さんに美味しいと言ってもらえたので安心しました。

■山田豊さん
なるほど。これからは僕も精肉を卸している料理人・お店にそれぞれお客様がいらしゃるので、その方々が喜んでくれる様子まで想像して、それぞれに合わせた肉の加工や提案ができるように頑張ります。加藤シェフはもう、どんな部位でも骨でも美味しく調理してくれる気がします。自分で試してみたいことをどんどんご提案して具現化していけると僕も牛も嬉しいです!

■加藤智樹シェフ
サシの入ったグルメビーフよりも健康的な赤身っていうのは、世界的な食のトレンドでもあるし、食べる方々の健康志向や食材とその流通・加工を取り巻く社会問題も多くの方々の知るところとなってきてますよね?やはり僕のお店でも肉は赤身が好まれますし、山田さんの肉はとにかく評判がいいです。ここまでキチンとドライエイジングして管理してくれる素材ですから、料理人たちが気づくのも時間の問題だと思いますよ。いろんな料理人たちが飯舘の牛を使って面白い料理をやり出したら、飯舘村の畜産を押し上げることにも貢献できるんじゃないかなとも思います。

■山田豊さん
まだまだ始まったばかりで、飯舘村の産業としても課題山積な状態です。でもスタートしましたので、牛飼いは一生の仕事というのを肝に銘じて着実に前に進んでいこうと思っています。
現代は肥育技術も改良も向上していて、サシを入れることがそれほど難しくありません。我々のトレンドもサシやグルメビーフというよりは、味や肉質にこだわるようにどんどんシフトしていってます。グラス牛、放牧牛、エイジングビーフ、これもトレンドです。
一方で、こうした飼育や加工はとても大変で手間のかかる作業なので、キチンとやろうとすると、誰でもが取り組める仕事ではないんです。マーケティングやブランディングとして表層だけ装ってる商品も存在します。自分たちは流行っているからやっているのではありません。市場における個々の役割をしっかり踏まえ、生産者、加工業者、料理人、それぞれのプロが一体となって初めて消費者に理想の牛肉を届けることができると考えています。                                  今日は加藤シェフの料理を食べて、また新しい肉のおいしさの伝え方を体験することができました。ありがとうございました。

■加藤智樹シェフ
喜んでいただけて何よりです。これから山田さんにどんな部位を納められても美味しい料理に仕上げられるよう頑張ります。
牛の飼育をはじめ、山田さんの労力やこだわりがよく理解できましたので、牛の隅々まで美味しく食べれる研究をしていきたいと思います。

 

<対談者>
■山田豊さん
株式会社ゆーとぴあ代表。
「肉のゆーとぴあ」(飯舘村松塚松塚65)は、福島県飯舘村の精肉店です。黒毛和牛の生産から販売まで行っています。
Tel 090-2993-6062  Fax 0244-26-4179
Mail yamada@niku-utopia.com
ホームページ 肉のゆーとぴあ

■加藤智樹さん
catoe(カトウ)オーナーシェフ。
福島県矢吹町出身。日本調理技術専門学校卒業後、都内や会津若松市内のイタリアンレストランで修業し、2013年に郡山市内に独立、『ラ・ギアンダ』をオープン。2020年に「catoe」としてリニューアルオープンしました。生産者に会いに行くことを大切にし、福島の食材の持ち味を活かした料理を提供しています。

店舗情報
店名 catoe                                                         住所 郡山市西の内1-19-7   ご予約はお電話にて ℡024-983-7367
夜の部OPEN 17時~CLOSE 23時要予約 ※昼の部 予約制

対談を終えて。『山田式弁当』誕生

肉のゆーとぴあ・山田豊さんのドライエイジングビーフを使った、2種類のお弁当が誕生しました。

●ハンバーグ弁当 (時価)
肉感強いハンバーグに仕上げています。

●スネ肉の煮込み弁当(時価)
自家製フォンドヴォーでスネ肉をコトコト煮込んでいます。

いずれも、天栄村の鈴木醤油の香りをまとう五穀米のご飯。県内産の旬の野菜を合わせています。

※肉の生産量が少ない為、ご予約をお願いいたします。(ご用意できるタイミングは、お肉の出荷に沿ったスケジュールによります)

店名 catoe
住所 郡山市西の内1-19-7

■ご予約はお電話にて ℡024-983-7367
夜の部OPEN 17時~CLOSE 23時要予約 ※昼の部 予約制
※アラカルト情報は、Instagram(@catoeakaghianda)をご覧ください