氣まぐれ茶屋ちえこ 佐々木千榮子さん

この茶屋は私が59歳のときに始めました。今78歳だから、もう19年。
飯舘村が平成17年に福島県第一号の「どぶろく特区」に認定されたのを契機に製造免許を取得し、福島県ハイテクプラザの支援を受けて「どぶろく」作りをはじめてから、毎年続けてきました。

震災があって、福島市内の借り上げ避難住宅へ避難しました。当時は仮設避難住宅の方々は、一か所に集まっているため、様々な支援がうけやすく、応援のボランティアや支援の手がたくさんあったのですが、私達のような借り上げ避難住宅に住んでいる避難者達は、そうした支援が受けにくい状況でした。
ただでさえ孤立しやすい環境の中で、今まで、朝から晩まで働いてきたのに、避難生活が始まって、生きがいだった茶屋ができなくなって、急に知らない土地で家でじっとしている生活を強いられるというのは、なかなか辛いものがありましたよ。

そんな中、相模原の知人から「何かボランティアでお手伝いできることはありませんか?」という申し出を受けて、その方を通じて全国各地から古い着物を送ってもらうことにしたんです。同じ境遇の借り上げ避難住宅の方々にお声がけして、針仕事をして、何か創作していれば、そこに生きがいや日々の楽しみを見出せるんじゃないか?って思って。

そうして集まった古布や昔の着物をリメイクする「手仕事」を始めたんですよ。チクチク、チクチク、日本中から色んな着物や古布が集まってきて、中には花嫁衣装や豪華な着物までびっくりするようなものも送られてきたときもありました。そんな活動をしながら、私自身の「どぶろく」づくりが途絶えてしまうのも悲しいので、これも避難先で再開させよううと思い立ち、税務署に行ったんです。
そうしたら「飯舘村で許可を下ろしたのでこの街ではだめです!」とあしらわれたんですよ、それが悔しくって。
「私も好きで避難してこの街に来たわけじゃないし、だったら飯舘に戻って再開できるようにしてほしい!」と税務署に食い下がりました(笑)そうしたら特例で、避難先でもどぶろくの製造を許可をだしていただけることになりました。
商売にはならなかったけど、当時は、“つくり続ける事”に意味があったから。

仲間に支えられ、励まされて乗り越えてきた苦難

気をはって、やることを見つけて避難生活を忙しく過ごさないと、しっかりしなくちゃって。ガオってる暇はなかった。でも実は震災前に乳がんを患って、抗がん剤治療明けというのもあって体力的にはクタクタだったんですよ。体調がすぐれない中、夫が病気で亡くなって。さすがにそのときは、自分も後を追うような悲観的な気持ちになってしまって、相当落ち込みました。
そんなとき、手仕事仲間がカラオケサークルに誘ってくれて。私は歌を歌って楽しめる気分じゃなかったから何度も断ったのだけれど、「歌わなくてもいいからおいで」って強く背中を押されました。サークルに顔をだすようになって、仲間に励まされながら過ごす時間のおかげでなんとか気持ちを持ち直すことができました。
気持ちは上向きになったけれど、避難生活が続いていた時は、茶屋を再建するなんて考えることはなかったですね。

やがて飯舘村の避難指示が解除となり、私達も元の家に戻ってこれるようになりました。
周りに再建だとか復興という言葉が多く聞こえてくるようになり、ようやく私も「もう一度お店をやってみようかな?」と思えるようになったので、令和元年5月に再スタートを切りました。

しかし、営業再開してひと段落どころか、世の中はコロナ禍という状況になってしまい、お客さんは来ないし、ちっとも軌道に乗らず、いろんな制約の中で、ちまちまと茶屋を営む生活が続きました。どぶろくづくりは夫から長男が引き継いでやってくれていたのですが、ようやくコロナ禍があけてきて、さあこれからだ!というタイミングで、今度は息子が亡くなってしまったんです。
夫の時もショックでしたけれど、息子の死はやっぱりショックが大きかったです。未だに気持ちの整理がつかないし、彼の部屋は今も片付けられなくて、そのままの状態です。

ブレーキ・バックなし。前進あるだけ!

私の人生いろいろあったけれど、この20年間は特に、いろんなことがありすぎて。
「お店をやってなかったら年金生活で悠悠自適なのに、なんでやりはじめたの」ってよくいわれるのよ。お金の使い方は人それぞれじゃない?私は、お店にお金を使って、こうして関わる方々との出会いに楽しく生活してるの。
最近は、日本中からこの茶屋にわざわざ訪ねてきてもらえるようになって。お店を始めた頃は、そんなこと全く想像もしてなかったから、びっくり。とてもありがたいことだなと思ってます。

59歳の時に、「お店をやりたい」という思いだけで始めちゃってよかった、「ブレーキ・バックなし。前進あるだけ!」
お店は、いずれ娘に引き継いでもらえるように、ごんぼっぱもちやどぶろくづくりを受け継いでいくこをはじめたの。今年も、飯舘村産の季節の食材をふんだんに使った郷土料理をまでいに提供します。
ぜひ、飯舘村にいらして~!

 

氣まぐれ茶屋ちえこ(福島県相馬郡飯舘村佐須200)
店主 佐々木千榮子
お問い合わせ先 電話 0244-42-1303 ※受付時間:月~日曜日 午前9時より午後5時まで

お客様に旬のお料理をご提供できるよう準備をととのえるため、5日前までの予約をお願いしています。
※ご予約・お問い合わせは、電話で承ります。

※春の営業開始日は、下記ホームページでご案内いたします。
■氣まぐれ茶屋ちえこホームページ