鈴木農園 鈴木秀範さん

日本初JAS認証 プロバイオポニックス栽培農産物 ミニトマト生産者 鈴木秀範さん 

農協職員から、生産者として歩み始めて

飯舘村で生まれ育ち、短大の頃村外で生活しましたが、卒業後は村に戻ってきて農協職員として15年間勤めました。農業で短大時代の所属部門は有機土壌でした。
このまま農協職員を勤めあげるか、実践で有機への道にチャレンジするか悩んだ結果、思い切って就農することにしました。父の後を継いで田んぼと畑の取り組みをスタートさせたのは1996年。レタス、ミニトマト、ワサビなど様々な品目を辿りながら通年を通しての生産を実施してきました。
こうした一連の生産体制を試行錯誤しながらようやく軌道に乗り出し、本格的に稼働させていくぞ!と思っていたタイミングで震災がありました。

生産者として、新たな活路を模索した7年

手ごたえを感じ始めたタイミングでこんな事になってしまった故にその悔しさから必ず飯舘村に戻って栽培を復活させる、という想いは福島市松川町での避難生活7年間、強くありました。自分で食べる分くらいの畑仕事をする一方で、震災前の栽培感覚を取り戻すべく、放射能被害にあった土壌から離れて水耕栽培での活路を模索したりしていました。
そして、水耕でも有機栽培があるのを知り、農研機構 安濃野菜研究所に視察に行き、そこの篠原先生にお会いして沢山のことを勉強させてもらいました。

日本初認証の取得へ

農協職員時代に担当した特別栽培農産物に始まり、水を電気分解して農薬の代替え利用や育成の促進を図る研究をしていたこともあって、水耕での有機栽培は自分の理想に合致した栽培スタイルでしたので、飯舘村の避難解除が決まった際に、村へ帰ってこの水耕での有機栽培に本格的に取り組もうと、村へ事業申請しました。
そこから栽培施設が完成するまでに約1年。
いざ新しい栽培手法に着手したものの、手探りと試行錯誤の連続でした。正解がわからない状態で四苦八苦していました。ミニトマトの生育で芯が止まる(光合成と肥料のバランスが崩れて生長点に必要な養分が供給できない状態に落いること)という現象に4年間悩まされ、篠原先生に相談しながら解決策を試しつづけてきて、ようやく打開できました。ホウ素不足だったんです。
やっと、芯止まりを防げるようになり、次はこの栽培方法による成果としてJASの認証を得ることが目標となりました。
そして、ついに「プロバイオポニックス技術による養液栽培の農産物」(※1)という種類で特色JAS(※2)の認証を得ました。これは日本初の事例です。

※1 「プロバイオポニックス技術による養液栽培の農産物」
プロバイオポニックス栽培は、農産物の生産に必要な窒素源をバイオマス(生物に由来する有機物である資源 ※化石燃料を除く)から得る養液栽培方法であり、未利用資源の活用による環境負荷低減が期待されています。

※2 特色JASマークについて(農林水産省HPより引用)
JASマークは、食品・農林水産品やこれらの取扱い等の方法がJAS(日本農林規格)を満たすことを証するものとして、食品・農林水産品や事業者の広告などに表示されます。
平成30年12月28日に、特色のあるJASに係るJASマークとして、これまであった3種類のマークを統合し、新たなJASマーク(特色JASマーク)を制定しました。特色JASマークにより、日本産品・サービスのさらなる差別化・ブランド化に向け、消費者の皆様に高付加価値性やこだわり、優れた品質や技術などを分かりやすくアピールすることが期待されます。

『日本初』×『飯舘村発』の歴史を残していきたい

認証第一号 栽培成功事例自体が日本初というトピック故に、今まで自分が参加していた研究会のメンバーや関係者が飯舘村まで視察に訪れてくれました。
水耕で有機栽培は、成功しないと今までは言われてきましたが、この認証により多くの評価を得ることができ、これからとても注目されると思います。

また、栽培手法だけではなく、味にもこだわり、美味しさを追求しています。
水耕栽培は「味が薄い、味よりも収穫量」という今までの概念を覆したく、養液にソリブル(鰹の煮汁)や他の栄養素を加え熟度と味の相関関係をもっと突き詰めているところで、今まで土壌栽培でも味にこだわってトマトを栽培してきた経験を活かし、水耕栽培も同じクオリティーにで出荷できるように取組んでいます。
この栽培方法で得られる安全・安心と美味しさ、これを安定して市場に供給するのが今後の課題としてありますが、まだまだ試してみたいことが沢山あります。

悩みは、こうした取り組みや独自性を消費者の皆様にお伝えすることがなかなか難しいこと。
認知度は低く、言葉が専門的で分かり難い。一言で言い表したいんですけどなかなか思いつきません。
できることを!と思って、専用POPを掲示し、パッケージにJAS認証シールを掲示しながら販売しています。
(2023年は12月中頃までの出荷予定。来年の出荷開始予定は、7月頃を目指しています)

飯舘村は生まれ育った故郷ですし、私の取り組みが直接村の復興に繋がるかどうかわかりませんが、ここから日本初の研究成果が誕生し派生していった、という歴史は残したい!と思っています。

★鈴木秀範さんのミニトマト販売店(2023年11月末)
○いいたて村の道の駅までい館
○イトーヨーカドー福島店

★鈴木農園さんのInstagram
yuuki.tomato.0607